株式会社ヨシノ自動車

トラック業界”鍵人”訪問記 ~共に走ってみませんか?~ 第2回

前神奈川県トラック協会 会長 / 新栄運輸株式会社 社長
筒井 康之様

前神奈川県トラック協会 会長 / 新栄運輸株式会社 社長
筒井 康之様

「トラック業界の明日はどこへ。よりよい未来のために今すべきこと」

ドライバー不足に長時間労働、そして改善されない運賃。日本のトラック業界を取り巻く現況はまだまだ厳しいと言わざるを得ません。第2回目となる鍵人訪問記は前神奈川県トラック協会長であり、運送会社の経営者でもある筒井康之様に会いに行ってきました。2016年6月に退任されるまで8年間、筒井さんは神奈川県トラック協会の長として、そして運送会社の一経営者としてリーマンショック以降、いっそう冷え込む業界をリアルに見てきたと言えるでしょう。そんな筒井さんにうかがうトラック業界を取り巻く現況とその問題点、そしてきたる2017年に向けて、いかに克服していくかを探ります。

写真・薄井一議
デザイン・大島宏之
編集・青木雄介

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ドライバー不足と「見えない」業界

筒井:トラック業界の問題点は数多くあります。一番の問題はドライバー不足ですね。3年前に消費税がアップしましたね。その前の10月下期ぐらいから駆け込み生産があって、物流が増えるのと同時に一気にドライバー不足が表面化しました。それが政府の中でも問題になりました。トラック協会はドライバー不足を常に訴えてきていて、やっとかという思いだった。その一番の原因は長時間労働ですよね。昔はトラックは稼げる職業でドライバーの気質も稼ぎたい人たちが集まる職業でした。例えば若いうちにトラックで稼いで将来独立するような夢を持った人も多かった。稼ぐことが一番の目的だから、時間で制約される感覚が、そもそもピンとこないんですね。それとドライバー不足を検証して、色んなデータを見て行くと、まず18歳以上の年齢でも免許をとらない人が増えてきた。昔は18歳になったら早く免許を取って、横に彼女を乗せてドライブするというのが夢でしたよね。そういう価値観がどんどん無くなってきてしまった。

中西:確かに免許をとらなくなりましたね。

筒井:結局あそこで普通免許を取ってくれないと、大型免許までたどりつかない訳です。その原因は何かということになって、それまでも我々は政治家に「どうにかして欲しい」と働きかけてきたのだけれども、ピンとこなかったんでしょうね。それが2011年の東日本大震災でトラックが貢献できたことで、ようやく一般の方々にもその必要性を理解してもらえました。熊本の震災のときもそうですし、古くは阪神淡路のときもその機運が高まったんです。災害があるとトラックの必要性があらためて見直されます。「いざ」という不測の事態には活躍しているんですが、普段は空気のような存在で、その必要性は感じられていないんですね。現在、その見直しがトラック業界の危機的状況を打破する、追い風になってきているとは言えるんですよ。

中西:ここ最近の風潮として、光明が見えているんですね。

筒井:そうです。でもまだまだ一般の人には、宅配便がどうやって配達されるかを普段意識しないように、物流が当然あることのように受け止められているんですね。だから不測の事態でそれが一旦止まると大騒ぎしてしまう。事態を目の当たりにして、初めて認識されるんです。ドライバー不足は本当に深刻で、安倍内閣も彼らが描く成長戦略において運輸業界が衰退してしまうと、成長そのものがのぞめないことに気がついたんですね。最近ようやく厚生労働省を通じて、政府が取り組み始めました。

中西:例えばどんなことでしょう。

筒井:再来年の平成31年4月から、中小企業でも月80時間以上の残業時間を超えると5割増しの時間外手当を払わなければならなくなりますね。当然、そんな事になったら現状のトラック業界はたちいかなくなります。でもそれによって不当に下げられた運賃や、長時間労働体制をまとめて見直すことが出来るんです。現在、全国の運送会社からドライバーの一週間の日報を集めて、各県のトラック協会がまとめていますが、それによって長時間労働の実態が浮き彫りになってきています。さらに荷主と運送会社と配達先の三社で、運行がどういう時間と流れで行われているか調査している最中なんです。そのデータで2年後の策定を目指して、ガイドラインが作られます。その成果には非常に期待しているんです。今までは我々がいくら言っても聞き入れてもらえなかった運賃が、荷主さん自身が「これはまずいな」と気づき始めた状況とも言えるんです。一時間あたりの賃金が低いことで、誰もドライバーをやりたがらないという状況を是正しようという機運が出てきました。

「準中型免許」の可能性

筒井:人が来ない理由は分かった。では新しい人をどんどん入れていかなければいけない。そこで国土交通省や関係各所に声をかけることで、長年要望してきた準中型免許がとれるようになりました。

中西:来年からですね。中型の免許が18歳から普通免許なしでとれるようになるんですね。

筒井:はい。ようやくそれも昨年決まりました。それと並行してトラック協会としては、出前事業として高校に働きかけも行っています。就職案内ですね。実はなかなか反響がいいんです。実際にトラックの現物をもっていって乗ってもらったりすると、その高い視座や大きさに憧れる若い人もいてくれるんですよ。

中西:そうでしたか。そんな若い人たちもいるんですね。それは大きな可能性ですね。そもそも高校卒業と同時に免許をとろうという人が少なくなっているから、労働時間や給与という点とは別に「運転することが好きだ」という人が少ないんだろうなと思っていました。

筒井:我々も驚いたのですが、ドライバーという仕事があることも知られてなかったんです。

中西:それは驚きますね。知れば、トラックに興味を持ってくれる可能性もあるのに。

筒井:そこで我々は高校をまわって、トラックを3種類ぐらい持ちこんで交通安全の啓蒙とともに、その必要性を訴えかける活動をしています。例えば震災のときは、「被災地にこれだけのトラックを送って食料を運んだんです」という話をします。そもそもが、そういう話を知らなかったりするんですよ。そこで興味を持ってくれた若い人が「じゃ、どうやったらなれるの?」と一歩先を考えてくれる。トラック業界も免許の問題があって、高校の卒業とともに働き手を募集することはなかったですよね。事務職はありますが、トラックドライバーはなかった。

中西:そうですね。それは免許の問題です。そこで「準中型免許をとってください」と言えるようになった。これは大きいですね。

筒井:準中型をとって、タンクローリーに乗りたい人は大型免許と危険物取り扱い者の資格をとればいいし、トレーラーに行きたい人はけん引免許をとればいい。ものすごく間口が拡がるんです。とにかく興味をもって、乗って、業界に入ってくれる人が増えてくれるといいですね。まだまだ始まったばかりですけど「かなり前進したな」と思っています。それと事故防止への取り組みですよね。年々、トラック事故は減っているんですが、なかなかなくならない。大型トラックは一回事故を起こすと、その被害が大きい。「トラックは365日、日本の物流を支えるために走っていますよ。震災の時には被災地へ必要な物資を届けていますよ」と言っていても、一回大きな事故が起こってしまうとそのイメージは大きく損なわれてしまいます。だからこそトラック協会としては、事故の恐ろしさについて啓蒙活動も行っています。

中西:実際、事故は両方が気をつけないといけないんですよね。本当に歩行者や自転車にも気をつけて欲しい。トラックには死角があってそこに入ってしまうとドライバーからは見えないということを知って欲しい。巻き込み事故があって、報道ではドライバーが気付かなかったと言っていて解説者がそれに対して「そんなはずはない」というのを見たことがあるのですが、本当に死角に入りこまれると見えないんですよね。気づけない。あれは実際に運転席に座ってみないと分からないことです。そうやってトラックの視座を体験してもらうことは、事故防止の観点で有意義なことだと思いますね。

適正な運賃のガイドラインと荷主とのパートナーシップ

筒井:トラック業界の諸問題を解決しようとすると、結局は政治の話になります。アベノミクスによって景気は上昇しているといいますが、実体経済はまるで良くなっていない。一部を除いてですが、運送業がその恩恵を受けているなんてとても言えませんね。例えば製造業の荷主さんのコストを考えてみると、輸送費というのはかなりの割合を占めているんですよね。だから輸送費をあげるのは、彼らにとっても死活問題と言えるでしょう。でもその輸送費の大半は、ドライバーへの人件費なんですよ。だから利益を上げたいがために輸送費を切りつめると結局、ドライバーの人件費が下げ止まったままになってしまう。だから相変わらず低水準のままなんです。いくら安倍さんが「賃上げしろ」と言ったところで、輸送費が変わる訳ではない。大企業はいいでしょう。軒並みボーナス満額回答ですよね。でも結局、我々は荷主さんにしかるべき輸送費を「このままではやっていけない」という事とともに、理解してもらうしかない。荷主さんとの良好なパートナーシップを育てるということが、今後のトラック業界を決めて行くことになるのだと思います。

中西:運賃の実体を知ってもらって、この荷物を安全に指定の時間に届けるためには「これだけの運賃はかかる」というガイドラインが必要ですね。

筒井:はい。そのガイドライン策定はトラック協会も進めているところです。そして我々も含めて「どうやって生きて行くか」という事を真剣に考えて行かなければいけない。そのためには優秀なドライバーを揃えて、安全で荷主さんに安心して荷物を任せてもらえるような運送会社にならなければいけない。そうなると優秀なドライバーの獲得競争になりますよね。まず事故をしない。安全に荷物を届けることが一番の使命であって、その結果会社の評判が上がれば必然的に会社の待遇も変わってくる訳です。採用についても変わりますよね。年金には加入するし、余裕ができれば厚生年金、企業年金とドライバーの将来を考えられる会社に変わっていくんです。現状でも社会保険に加入していない中小の運送会社は多いです。ドライバーも分かってくれば、自分が所属する会社にその待遇を要求するようになっていくのではないかと思うんです。その期待感も持ってるんです。そうなれば必然的に会社もコンプライアンスを守るようになるでしょう。ドライバーも労働時間も含めて、守られて待遇が良くなる。そうなれば、と思うんですが。

希望を支えるトラック業界のプライドとは

中西:政治の問題でいうと結局、「その場しのぎでここまで来ている」という印象があるんです。1990年に施工された運送業の規制緩和だって、上っ面の規制緩和だから同じ問題を抱えながら「ここまで来てしまった」という実感があるんですよね。だから抜け道がいっぱいあって結局、大手以外は誰も得をしないという構造が生まれてしまった。規制緩和するならするで上から下まで緩和しなければいけないし、規制するにしても上から下まで全部規制をかけなければいけないですよね。

筒井:そうです。そもそも規制の多かった旧運輸省が先陣を切ってあの規制緩和に動きました。でもそれによって法令を守らない業者が増加して事故が増えました。そこで「大変だ」と、あわてて下を締めようとして規制に動いたんだけれども、監査員の数は足りない。トラック協会には適正化事業という良し悪しを判断する物差しはあるんだけれど、それに基づいて国土交通省が監査に入っても指導ぐらいしか出来ないのが実態なんですよ。

中西:そう。そこですよ。行政指導だけで終わってしまう。

筒井:なぜなら神奈川県だけでトラック協会の会員の会社が2200ぐらいあるとして、非会員は3000社以上あるんですから回りきれないですよ。規制緩和以降、バス会社も増えているでしょ。トラック協会としても、「本当にここは酷い」という会社は報告して国土交通省に監査に入ってもらってはいるけど、事故が起こってからでないと監査が入らないというジレンマはずっと抱えているんです。ただ行政処分の内容は厳しくなっていますよ。悪い会社はどんどん排除しようという流れですからね。

中西:事故が起こるまで、実態がつかめないのは本当にまずいですね。一方、優秀なドライバーを抱えた良い運送会社になりたいのはどこも一緒ですよね。私はいつも「良い会社とは何か」、「社員がプライドをもってトラック業界で働くためには何が必要か」ということを考えています。例えばヨシノ自動車ではホームページや発信する情報など、まず目に見えるところから積極的にイメージを変えて行こうと考えています。それと同時にただトラックを売るだけではなく、それに付随する保険やメンテナンスなどトラックに関わるすべての業務を包括的に、お客様にコンサルタントできる会社になりたいと考えています。弊社の業態が多岐にわたっていることも理由のひとつですが、社員ひとりひとりにコンサルタントとしての意識を持ってもらいたい。そのためにはトラック業界を取り巻く現況も知ってもらわなければいけない。筒井さんはドライバーの意識を変えて行く、プロドライバーとして誇りを持ってもらうために何が必要だと考えますか?

筒井:それはとても重要なことだと思います。ひとつは「Gマーク」を弊社でも早い段階に取得したんですよ。Gマークは取得するのに大変な労力がかかるのですが、それを理解してもらうことでドライバーの意識が変わったように思えますね。例えば「Gマークつけた車が事故を起こしてたよ」となると認証を取り消される可能性もある訳で、気をつけるだろうし、それまで以上にGマークをつけているプライドをもって運行してくれているように思いますね。それと半年ごとに走行記録と燃料費からエコドライブの表彰をするようにしています。

中西:そうでしたか。そういう積み重ねが大事なんですよね。もっと業界全体で日々の仕事の中でちょっとした優越感だったり、やり遂げた達成感だったり、大きな事じゃなくていいから、日々の積み重ねの中にそういう喜びを入れて行ければいいと思うんですよね。会社がそういう器になれれば素晴らしい。結果、それが何年後かに優秀な人材に育っていたり、具体的な結果になって出てくるような気がするんです。

筒井康之(つついやすのぶ)
1939年1月12日生まれ。1977年2月新栄運輸株式会社、社長に就任。5月に株式会社広栄商会、広栄運輸株式会社、社長に就任。1995年、全日本交通安全協会より緑十字銅賞を受賞。2008年、神奈川県トラック協会会長就任。2010年、全日本交通安全協会より緑十字銀賞を受賞。2011年、政府より旭日双光賞を受賞。2016年6月、神奈川県トラック協会会長を退任。

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