株式会社ヨシノ自動車

トラック業界”鍵人”訪問記 ~共に走ってみませんか?~ 第3回

株式会社トランテックス 専務取締役
加納喜好 様

株式会社トランテックス 専務取締役
加納喜好 様

「最新鋭で架装せよ!メーカー完成車は今後、何を生み出していくのか」

第3回目となる「鍵人訪問記」では敷地面積103,289㎡(東京ドーム約2.2個分)、年間1万台超を製造している金沢のボデーメーカー、株式会社トランテックスさんにおじゃましました。日野自動車を親会社にもち、かつてはバスのボデーを専業で製造していた経験からリーディングカンパニーとしてウイングやドライバン、冷凍車などを製造しています。今回は専務取締役の加納喜好様にご登場いただき、昨今なにかと話題のメーカー完成車“VQシリーズ”やトラック架装の未来、職場への女性進出などについてお話をうかがってきました。

写真・薄井一議
デザイン・大島宏之
編集・青木雄介

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現在は買い替え需要の高まりどき

____ヨシノ自動車とトランテックスさんはどんなきっかけでビジネスパートナーになられたんですか。

中西:僕が入社する前からですので、20年以上になります。ヨシノ自動車は中古車業者なので、本来であればボデーメーカーさんとの取引というのはなかったんです。ただヨシノ自動車が新車も販売するようになって、トランテックスさんとの取引も増えていったんですね。弊社の主力であるウイング車や冷凍車の扱いでいえば現在、7割ぐらいを占めています。

加納:ヨシノ自動車の現会長さんが先代の社長さんだった頃からお世話になっておりまして、先代の社長さんが日野自動車にいらっしゃったことにもご縁を感じさせていただいておりました。手前味噌ですが、非常に良好な関係を結ばせていただいているとおもいます。

____了解しました。さっそくですがトランテックスさんの現在の需要とはどんなものなのでしょうか。

加納:現在、非常にトラックの需要が旺盛な時期であると言えると思います。ひとつは排ガス対策用に代替え需要が高まっているのと、ふたつめは軽油の価格が安定していますね。そこで運送事業者様の経営環境に余力があると言えると思います。これらがあいまって当社では、車型によって1年待ちのバックオーダーも抱えているような状況です。お客様の需要に対して「増産はしているけれども追いつかない」という状況です。そんな中で目立った話題としては昨年6月に冷凍車の製造ラインをラインオフしました。そもそも冷凍車は弊社としては弱点だった車型でした。生産能力も少ないですし、日野自動車の中でいうと大型、中型トラックの新車販売は高いシェアを頂いておりますが、冷凍車は苦戦していました。けれども増産できるようになったことでシェアがあがってきました。さらに増産していければ我々の目標通りに進んでいけると思います。

VQシリーズのもつインパクトとは

____その中での最近のトランテックスさんの中の主力と呼べるのは、どの車型になるでしょうか。

加納:弊社の主力はウイング車なのですが、親会社である日野自動車とタイアップしましてVQシリーズというメーカー完成車を始めました。当初はアルミのウイング車だけだったんですが、中型の冷凍車、ドライバンと車型をどんどん増やしていきました。民需車(通常のオーダー車)より安価で、納期も早く、現在の運送業界のニーズに合ったVQシリーズでお客さんに喜んでもらいたいと力を入れているところですね。

中西:VQシリーズは弊社でも販売させていただいてます。弊社からトランテックスさんに直接オーダーも出来るんですが、それだけでは間に合わないのでディーラーさんにも発注をかけているところです(笑)。

____やはり引く手あまたなんですね! VQシリーズの魅力とはどういったものなのでしょうか。

加納:ひとつには全幅も全高も最初に最大化を図っているんです。だからおおよそのニーズには対応できます。それを短納期で販売したから人気が出たのだと思います。

なぜメーカー完成車は売れるのか?


© VQシリーズウィング車

____短納期の理由はオートメーション化がはかられたからでしょうか。

加納:いや。最初から生産枠を集中して押えることが出来たからですね。ふつう民需車だと工場ラインの引当てがあって、その枠で製作するのですが、そうすると納期が後ろにずれていってしまいますね。けれどもVQシリーズに関しましては工場ラインをあらかじめ確保した上で未引当てのまま作ることが出来るので、お客様がオーダーしたときに在庫車両があればすぐにでも販売することが可能になります。

____なるほど。注文が来る前に決まった台数のトラックを製造しておけるんですね。

中西:先ほど専務がおっしゃられたように、汎用性の高い仕様で作っていただいているから、1台で注文するよりもコストが下がりますよね。なによりいろんなお客様に販売できるのが大きいですね。いろんな運送会社さんの業態に合うんです。

加納:ヨシノ自動車さんのように、販売もすればリースもレンタルもするというような多様なニーズを持ってらっしゃる会社さんにはぴったりなんですよね。たとえばどこかの運送会社さんの専用車というような仕様は、他の運送会社さんではなかなか売れないんですね。今までの販売方法は、それぞれのお客さんのニーズを弊社の営業マンがヒアリングして、理想に近い仕様を提案するという販売方法だったのです。言ってみればお客さんごとの仕様だったんですね。弊社ではウイング車を年間7000台作っているのですが、現在その内の3600台がVQシリーズですね。弊社の全車種をみても3割5分はVQシリーズです。

好循環がさらなる好循環を生む

____VQシリーズはトラックメーカー提案型の統一された車型をもった「メーカー完成車」であり、昨今のトラック業界のトレンドでもありますね。トランテックスさんとしてメーカー完成車に注力する理由はどういったところにあるのでしょうか。

加納:弊社としては今後さらに完成車の比率を上げていきたいと考えています。その理由としては、まず営業サイドからすると手離れがいい。販社としても自分たちで売れるトラックですよね。民需車のお客様には弊社の営業が直接お話をうかがいにいかないと、なかなか売れないんです。完成車を販売することで、我々もさらに新規顧客開拓のために営業が出来ます。一方、工場サイドからすると弊社には設計が百数十名ほど在籍しているのですが、余力が出来れば開発にまわすことが出来ます。そこで明日の糧となる経営資源を生み出したい。これまでは一台一台設計していたので、注文をこなすだけで精いっぱいだった訳です。

ウイングモデルチェンジは今年の夏に

____なるほど。トランテックスさんの経営の好循環を物語るエピソードですね。今後どのような技術を開発したいと考えていらっしゃいますか。

加納:ひとつはまず作りやすいボデーを作りたい。この夏からウイングは大型、中型とフルラインナップで販売するのですが、ウイング車両は6面体構造です(天面、床、ウイング左右、あおり左右)。これが例えばあおりの構造を変えようとすると、床の仕様を変えなければいけない、根太の構造まで変えないといけないという設計手法になっているんです。これをそれぞれ独立した変更で済むようにしたい。モジュール化(1つのシステムを、交換可能な独立した機能を持つパーツ同士で構成しようとすること)あるいは我々の言葉では“縁切り”と呼んでいるのですが、そうすればひとつの変更で30時間かかっていた設計の時間が半分以下になるんですね。
製造ラインもモジュール化を前提につくっていける。よって効率もあがるし品質も安定します。それは我々の長年の課題である軽量化にも大きく寄与します。昨今のエンジン小型化の例をとってもそうですが、排ガス規制などでシャーシ重量が重くなる傾向がありますから軽量化は常に求められています。軽量化は部材をスチールからアルミに変えるのが一番いいのですが、それはコストに跳ね返ってしまうし、剛性の問題もあります。そうするとウイング車両全体の応力を高めていかなければいけない。そのためには実験をどんどんやらなきゃいけない。やれば壊れるの繰り返しなのですが、ついに商品化に成功しました。この夏にモジュール化されたウイングシリーズを販売します。

____いよいよモデルチェンジするプロフィアと足並みをそろえるんですね。楽しみですね。営業サイドのメリットはどんな点でしょうか。

加納:メーカー完成車以外の車両は民需車です。一台一台オーダーを受けて製作するんですね。ここにもっと注力したい。最終的に完成車を6割から7割に引き上げたいのですが、民需車にも注力したい。ここに注力しなくなるとお客様のニーズが見えなくなるんですね。

賞味期限のあるトラックという認識

中西:そうでしたか。なるほど。現在の業界需要のリサーチは必要ですよね。つまり物流業界自体の効率化が進んできているからこそ、完成車がこれだけ脚光を浴びているんだと思うんです。むかしはバラ積みだったりパレット積みだったり、荷物のカタチが違っているからそのお客様の使用用途に合わせた仕様のトラックが必要だったのだけれども、効率化が進んだことでメーカー完成車で汎用できるようになった。我々は中古車販売が主力ですから、お客様に販売するとき「中古トラックにその仕様はないですが、VQシリーズでいきましょう」とアドバイスさせていただいてVQシリーズを販売しているのが実情です。

____それはVQシリーズが高年式の中古トラックと並べてみても、競争力をもちうるということでしょうか。

中西:そうですね。それもありますし、むかしはトラックを新車で買えば10年以上使用していたんですよ。けれどもここ数年での都市部における排ガス規制が強化されるに従って、「ここ7、8年しか乗れないよね」という考え方に変わってきたんですね。

加納:そうなんですよ。トラックに賞味期限が出来てしまっているのです。

中西:はい。少なくとも感覚値として10年を切ったのは間違いないですね。むかしは中古車でも頑丈なボデーが売れたんですよ。でも積載がとれるトラックのニーズが年々高まっていることもありますし、より軽量化され安価であるという完成車のニーズが高まるのも無理からぬことなんですね。

新しいトラック架装の未来を創る

____そんな軽量化され安価になったトラックボデーですが、今後トランテックスさんとして取り組むべき課題は何かお教えください。

加納:まず物流センターや物流倉庫、その中にある設備メーカーとの連携を模索していきたいと思います。ヤマト運輸様のゲートウエイをはじめとする今の物流センターは自動化、省力化、効率化などがどんどん進んでいるのに、最後、トラックボデーへの積み込みは人手に頼っていて、効率的な物流システムに切れ目が生まれてしまっていると感じています。物流センター内は女性がたいへん多く活躍されていますが、運転だけでなく荷積みをともなうカーゴ系のドライバーはダンプのドライバーと違い、なかなか活躍の場が少ないのが現状です。積み込みの自動化は自社努力だけでは解決できない課題ですが、関連のメーカーとそこにユーザーも交えて「共創」で乗り越えたいと思います。

中西:なるほど。素晴らしい考えだと思います。企業や業種の垣根をこえて、トラック業界全体をより良くするための意志という意味で、弊社の「共走」と同じ志を感じますね。

ドライバーにとって、より快適な環境で作業してもらうために

加納:そして一番の課題はやはり安全性ですね。トラックそれ自体は衝突軽減ブレーキや安全性が高まってきているので、ボデーもトラックの安全性に貢献していかなければいけない。荷台の乗り降りひとつを取っても、リヤステップの踏み幅を足の幅に広げる仕様がオプションになっていたり、アシストグリップもオプションになっていて、どうすればより安全に握りやすいグリップになるのか、この仕様は本当にオプションでいいのか、などまだまだ検討する余地はありそうです。ウイングの荷台への側面からの乗り降りに対しても安全作業の観点からすると、決して十分とはいえません。

中西:確かにトラックボデーは「それで当たり前」とされている仕様が多いですね。

加納:はい。それと作業の快適性をあげていきたいですね。100V、200Vで動く機器は世の中に多数ありますので、専用バッテリーを搭載してそれらを動かす検討をしています。たとえば小型ドライバンの集配車の庫内は夏場、非常に高温になりますが、スポットクーラーを使えれば熱中症対策ができるかも知れないし、冬場はヒーターを入れることも可能です。現状、ウイングやドライバンには冷暖房設備は何もないですよね。実際にそういう環境下でドライバーさんが仕事をしている訳です。そんな環境下でドライバーさんが集まるだろうかという話につながる訳です。運送会社の経営者の皆様が「ドライバーを大事にしたい」という気持ちを、ボデーを通して形に表わすのがメーカーの役割だと思います。

____確かに運転手不足の時代に、それは耳の痛い話ですよね。さきほど出た事故安全性という意味で、ボデーが貢献できることはどんなことがあるのでしょうか。

加納:はい。トラック単体で考えてみると前方向への衝撃や事故には対策が進んできました。けれども後ろ方向での事故も多くあるんですよ。後進時に人の存在に気づかず轢いてしまったなどの事例はいまだに非常に多い。バックアイが標準装備されるようになりましたが完全ではないですよね。死角がいっぱいあるんです。だから人や障害物を検知するセンサーを取り付けるとか、乗用車のようにアラウンドビューモニターをつけるとか。ですから開発もそうですが、我々は「お役立ち活動」として啓蒙活動も行っています。

ボデーメーカーの実施する「お役立ち活動」とは

中西:ボデーメーカーが啓蒙活動をされていらっしゃるんですか?

加納:はい。2010年頃からお客様の悩み事や相談事を聞いて、問題解決のお手伝いをしようと取り組んでいます。それで問題解決をしんしにはかることでお客様とのパートナーシップをより強くしていこうというところからスタートしまして、現在実施した企業様は500社を超えました。内容としては冷凍バンの取扱いや車両後退時の安全講習、荷積みやテールゲートの安全な操作講習などもあります。こういう出張講習を実施しているのはボデーメーカーとしては、トランテックスだけです。非常に高評価をいただいておりまして、現場で様々にあがってきた問題点などはあらためて設計や工場も一丸となって解決にあたります。無償で土日も出張しますので労力はかかるのですが(笑)。

中西:弊社が依頼しても行っていただけるんですか? 弊社として受けるのはもちろんですが、弊社が音頭をとってお客様に受けていただきたいですね。

加納:是非、活用していただきたいですね。講習の様子を記録して荷主さんに報告すれば必ず喜ばれると思います。どういった形であれ、我々のサービスを利用していただくのが大事ですので。日本全国飛んでいきますよ。

トランテックスのDNAとは

____こうやって他のボデーメーカーに先駆けて、積極的な活動やサービス改善に取り組む理由は何かあるのでしょうか。

加納:はい。やはり「トランテックスはナンバー1ボデーメーカーを目指そう」という大スローガンがあるのです。だからこそ売るだけではなくてアフターサービスの効率化や予防整備にも力を入れていきたい。

____そんなトランテックスさんが金沢に本社をかまえる理由とは何でしょうか。

加納:それは弊社の前々身である1942年に創業された金沢航空工業株式会社以来、そもそも土壌として金沢周辺に部品工場が点在していたからなんです。現在でもそうなのですが、弊社は基本的に組み立て工場なんです。こういう少量多品種の部品を作っていただける協力会社あっての弊社なんです。ですから同じ業態を関東でやろうとしても、協力してくれる会社が見つからなければ難しい。そこが弊社がここ金沢で生産を続けている理由と言えるでしょう。ちなみに前々身の金沢航空株式会社では飛行機の尾翼を作っていたそうです。そのリベット技術が生かされてバスを製造するようになった。その後にトラックボデーです。もともとバスを作っていたからこそ、外観品質を上げようと考えるのはDNAといっていいのではないでしょうか。

促進したいトラック業界への女性進出

中西:外観品質のところでいうと、塗装工程に女性の職長さんがいらっしゃいましたね。貴社は積極的に女性の職場進出を促しているイメージがあります。

加納:はい。いま弊社に入社する新入社員の2割が女性です。実際に現場で働きたいという女性が多いんですよ。女性が現場に入るとまず活気づきますね。職場もきれいになります。その代わり更衣室やお手洗いなど設備投資も必要になってきます。女性社員を増やしたいと考えていますので、女性ならではの仕事を作っていきたいと指示もしています。ドライバー不足で女性ドライバーが注目を集めている時代でもありますから、そのためには女性の視点でトラックを見れる人がいた方がいいですよね。だから設計にも女性を入れています。2017年度では初めて営業部署に新卒の女性社員が入社します。面接の時にちょっと心配になって「厳しいけど大丈夫ですか?」と聞いたら二つ返事で「営業がしたいです!」とかえってきたので「ヨシ!」と(笑)。

中西:我々が思っている女性へのイメージを覆される感覚がありますよね。弊社にもこの4月にメカニックとして女性社員が入社するのですが、見かけは華奢でかわいらしい感じなのに「トラックの整備がしたい」という意志で入社してくるんですよね。こちらが女性を意識的に入れようと考えているのではなくて、現状で女性たちの我々の業界を見る目が変わってきているんだと思うんです。弊社でも明確に変化を感じられることもあって、弊社は特に長年“トラック屋”でやってきていたので、応対などのサービス面では最悪だったんですよね。上から目線というか、それは元々、異業種から来た私には考えられないことだったんです。それがどんどん女性社員が増えていくことで、コミュニケーションを円滑にはかるサービス向上という意味で、良い効果をあげているのは間違いないことなんです。ただ現状この業界だからこそ、なおさらその部分が目立ってしまっていると感じます(笑)。その意味では業界全体の意識を変えていかなければいけない時期だな、と感じています。

加納喜好(かのう きよし)
1951年7月5日生れ。1974年 金産自動車工業株式会社(旧日野車体工業株式会社(※)の前身)入社、2012年 株式会社トランテックス 専務取締役、営業本部長、開発部担当就任、2015年 専務取締役、営業本部長、品質保証部、企画部、調達部、総務・人事部、経理部、BR TIMS改革室、監査室担当就任。現在に至る。

(※)2002年10月1日付で旧「日野車体工業株式会社」を分社し、社名を株式会社トランテックスに変更し、現在に至る。

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