株式会社ヨシノ自動車

鍵人対談 日野自動車株式会社 製品開発部佐藤直樹様、渡邉良彦様、中西俊介(ヨシノ自動車社長)

トラック業界”鍵人”訪問記 ~共に走ってみませんか?~ 第8回

日野自動車株式会社 製品開発部
大型トラック担当チーフエンジニア 渡邉良彦様
中型トラック担当チーフエンジニア 佐藤直樹様

日野自動車株式会社 製品開発部
大型トラック担当チーフエンジニア 渡邉良彦様
中型トラック担当チーフエンジニア 佐藤直樹様

「開発の現場が語る! 新型プロフィアと新型レンジャーのすべて」

この4月、日野自動車は大型トラックのプロフィアと中型トラックのレンジャーをモデルチェンジしました。プロフィアは14年ぶり、レンジャーは16年ぶりという大規模なモデルチェンジにして大型中型同時という驚きのトピックでした。大型中型トラックのシェアNO.1をはしる2大ブランドが、なぜ変わり、どこが変わり、どんな思いで開発されたのでしょうか。 第8回目となる今回は新型プロフィアの開発を指揮した渡邉良彦氏と、新型レンジャーの開発を指揮した佐藤直樹氏にご登場いただき、現場の開発者ならではのリアルな本音を伺ってきました。斬新に見えるデザインに隠された思いや、ドライバーの疲労軽減をはかるための新技術、そしてドライバー不足が叫ばれる中、ドライバーだけでなく、街に愛されるトラックとはどんな姿をしているのでしょうか。日野ユーザーのみならず業界関係者、必見の内容です。

写真・ハラダケイコ
デザイン・大島宏之
編集・青木雄介

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新型の業界に与えたインパクトとは

____まず最初に、中西社長に新型プロフィア、新型レンジャーが業界に与えたインパクトについてお伺いしたいのですが

新型プロフィア © 日野自動車

新型レンジャー © 日野自動車

中西:ここ最近でいすゞ、ふそう、UDと日野さん以外の各メーカーも大型車のモデルチェンジを行いましたね。その中で日野さんは大型、中型同時にモデルチェンジをしたインパクトは非常に大きかったと感じています。日野さんのポジションが業界のリーディングカンパニーということもありますが 販売店としては大きなトピックをいただいたという印象です。また一方で我々は運送会社とレンタカーも経営していますので、使う側としても大きな興味を抱いているところです。そもそも「トラック≒日野」という認知度とマーケットシェアがあり、その上での同時モデルチェンジですからね。気にならない訳がないですよね(笑)。

佐藤ヨシノ自動車さんの新型プロフィアとレンジャーの評価記事は見させていただいておりまして、社長がよく見ていらっしゃっていただいているので非常に嬉しかったです。これは乗ってみたくなると思いました。

中西:ありがとうございます。メーカーさんのカタログに書いてある様な内容ではなく、 性能機能とは違うところを伝えるのも我々の使命かと思いました 。実際、ドライバーさんは細かい性能を見ているわけではなくて 、フォルムだったり言葉にしがたい乗った感触だったりでトラックを評価している 。もちろん商用車なので、会社の資産として考えた場合にかっこいいとか、そういうことを言っている場合ではないかもしれないけれども、 その資産を操るドライバーさんからしてみればウェイトの高さはそこにあったりします。もちろん経営者からすると価格や燃費性能、安全性能を、一番気にするところではあるんですけれども、 それだけではないところを伝えたかったのはあの企画だったのかなと思います 。

同時モデルチェンジの理由は排ガス規制への対応

____そうですね。今回レンジャーは16年ぶり、プロフィアは14年ぶりのモデルチェンジとなりました。もちろんそれは開発陣の意向ではないとは思うんですけれども、タイミングを一緒にしたことによってデザインの多くを共有化していますよね。まずは、その狙いの様なものがあれば教えていただきたいです。

渡邉:やっぱり日野の中ではレンジャーとプロフィアは兄弟車です 。小型のデュトロもそうなんですが、大中小と流れるように シリーズ化していかなければいけない。今回は非常にそれがやりやすかったと言えますね 。本当を言えば小型も一緒にこの機会にやれればよかったんでしょうけれども、大型中型のトータル感という所では、使命は果たせたかなと思います。

佐藤:特に今回は平成28年排ガス規制に適合させるという課題があり、この規制は総重量7.5トン以上の車両が対象になっていました。7.5トンというと、もちろんプロフィアとレンジャーの両方を同時に新たな排ガス規制に適合しなければいけないというところで、それが大きな転機でした。会社としてはこれをチャンスとしてとらえ、このタイミングでモデルチェンジをすることになりました。

____排ガス規制に対応するということは、やはりエンジンのモデルチェンジを行わなければいけないというところが大きかったのでしょうか。

渡邉:エンジンも大きいんですけれど、一番大きいのは 後処理の部分なんです。ホイールベース間における DPF だったり、マフラーだったりが 大きくなっているので車のレイアウトそのものをいじらなければいけない必要がありました。 エンジンだけでしたら車の全体だったり、シャーシまでいじる必要はないんですけれども、どうしてもホイールベース間のレイアウトをいじらなければいけないというのが一番大きかったですね。

市場にまだまだ受け入れられていた先代

先代プロフィア最終型

先代プロフィア最終型

____それは大型も中型も、その必要性が生じていたということですね。

佐藤:はい。レンジャーも今回の排ガス規制対応で、排ガス後処理装置を大きくせざるを得ないため、ホイールベース間のレイアウト見直しが必要となりました。それとモデルチェンジの理由としては、やはり、それぞれが前回のモデルチェンジからだいぶ時間がたっていることが大きかったです。先代のプロフィアもレンジャーも、長いモデルライフでしたが、市場からは斬新なスタイルが好評で、ずっと変更せずにやってこれました。今回は排ガス規制に適合させるとともに"ドライバー不足に貢献するクルマ“をコンセプトに商品開発を進めてきました。

____お二方はプロフィアとレンジャーの、先代のモデルの開発にも携わっていらっしゃったのですか?

渡邉:はい。私はこの会社に入ってからずっと大型の開発担当です 。やはり大型と言うのは特異なところが大きいので、 知識的にも専門性の高い車種ではあるので 専任で任せていただいているのだとおもいます。

佐藤:私は今回が初めてです。私は大学を卒業して会社に入社して直ぐに品質保証部に配属され、お客様の声を聞き製品へ改善をフィードバックするといった品質保証業務を約10年やっていました。 その後は設計部署へ異動となり、セミトラクタの車両全体レイアウト設計を約6年経験した後、現在の部署に異動となり、海外大型トラック・主に中国合弁会社の車両企画開発を約9年間携わり、海外の方と一緒に仕事をする経験を積みました。入社以来、本当に色々なことを経験させていただき、この16年ぶりのモデルチェンジのタイミングで、初めて中型トラックの開発に携わることになりました。

____なるほど。お二人の経歴がそれぞれ違っているのが大変、興味深いですね。中西社長、先代のプロフィアとレンジャーに関してはどんな印象をおもちでしたか。

中西:先代は出てきた時にも、他のメーカーさんに比べてデザインにインパクトがあったし、すごくかっこいいとも思っていましたね。お客さんの声も「あれに乗りたい」という声がすごく多かったんですよ。あれから今に至るまで、ずっとトップを走っている印象がありますね。 レンジャーは正直に言うと最初は顔があまり好きじゃなかったんです(笑)。その前のスペースレンジャーが個人的にすごく好きだったので、 弊社で取引してらっしゃるお客さんの市場系のお客さんとか鮮魚の冷凍系のお客さんだったりも、「スペースレンジャーはかっこいいけど、レンジャープロはなぁ」と言う評判でした。だから僕の入社当時、モデルチェンジと共にレンジャーを売っていた記憶があって、正直そこから2年間ぐらいは違和感があったんですよね。

最初から構想されていたリビングのようなインテリア

____それだけに今回のレンジャーの変貌ぶりは、特に目が引きつけられたのかもしれませんね。今回プロフィア、レンジャー共に商用車のイメージを排して、乗用車の様な付加価値のあるデザインを目指していますよね。

渡邉:そうですね。今回は最初から「そこは変えよう」と思っていました。 前のプロフィアの時は、確かに外観は非常にご好評をいただいておりました。ですから変更の必要をそれほど感じなかったのですが、インテリアに関しては「いかにも仕事場で。居住性もあまり…」ということをずっと言われ続けていたので、とにかく内装に関しては大きく変えたかったのです。特にドライバーさんにとっては、ただ運転する場所ではなくて、特に大型は長距離が多く、室内で休憩を取られるケースが従来よりも増えていることが分かっていました。ですから少しでも安らげるくつろげる空間を第一に考えて、インテリアは家にいる様な感覚を目指しました。そこは今までの感覚とは、一番ガラッと変わったところと言えるかもしれませんね。

中西:本当ですね。僕が驚いたのは助手席までの導線をウォークスルーにしたことですね。

渡邉:あの空間はですね、デザイナーは空いた空間があると、どうしても何か置きたくなっちゃうんです(笑)。今回は「リビングに最初から丸テーブルが設置されてる家はないでしょう?好きなように使えばいいんだから、ここはフラットな空間にしたい」と最初から言い続けてきたのですが、どうしても何かを置きたがってしまうんです(笑)。何度もそのやり取りは繰り返しましたね。そうはいっても、どうしても収納がそこに必要な場合もありますので、そういうお客様にはコンソールなどをオプションで用意して、対応することにしました。

共有化され、中型車が主導したインテリアデザイン

____今回、内装で参考にされたデザインはあったりしたのですか?

佐藤:中型のレンジャーのドライバー層を考えると、やはり乗用車感覚というのが重要になってきます。昨今のドライバー不足ということもあり、初めて中型車に乗った時に「乗用車と変わりがない」と安心してもらえるような感覚、「これなら運転できるかもしれない」という感覚が、すごく大事になってきます。そういう思いがあって、カーボン調のデザインだったり、若い人だったり女性の方だったりが、この空間好きかもしれない、この車なら乗ってもいいと思ってもらえるような内装を目指しました。そこを非常に意識しましたね。

____なるほど。今回のモデルチェンジのインテリアのデザイン主導は、どちらかというと中型車に比重を置いて考えられたということでしょうか。

渡邉:そうですね。今回、私がインテリアで関わったのはもともとカーボン調のところはピアノブラックだったのですが、やはり傷が多くなってしまうので商用車には向かないとアドバイスしたぐらいですね。

佐藤:中型車はより乗用車に近いということもあり、軽自動車があの限られた室内空間のなかで非常に多くのものを収納できることだったり、といったところを非常に参考にしました。そういうアイデアは「小さいものから学べ」ということですね。ワンボックスの乗用車でこの先、何が流行するのかだったり、やはり若い人が車から離れているという現実があるので、少しでもドライバーに乗りたいと思ってもらえるってことを意識していますね。

中型車の顔には優しさが必要

____なるほど。より乗用車に近い中型車が、今回のモデルチェンジの肝だったことがよくわかりました。ちなみに今回の顔の部分は、どういったコンセプトでデザインされたのでしょうか。

佐藤:外観はやはり日野自動車ブランド共通のデザインイメージを重視しながら見ていきました 。中型の決め手といいますか、僕がすごく意識したのは、大型はフラッグシップとして『ドン』と日野と言う押し出しを重視しているんですけれども、中型は『ドン』と構えるよりもスーパーマーケットだったりコンビニにも配送に行きますし、街中を多く走るので、やっぱり『キビキビと走る』といった躍動感だったり、人への優しさが必要であると考えました。「街との調和」を意識して、街の景色に溶け込む、入り込むようなデザインにしました。もちろん、ドライバーが乗りたくなるスタイルというのは意識しデザインしています。中にはちょっと優しすぎるんじゃないか、もっと押し出しが強い方が良いんじゃないかという意見もありました。でも子供連れのお母さんとかが街を歩くときに、「トラック怖い」と思うと思うんですけれども、極力そういうイメージを与えずに身近なイメージでいてくれる方が良いと考えました。そこにはこだわって決めていきましたね。

中西:それは考えませんでしたね。 中型はより身近であって、そういう街の中に溶けこむデザインを考えなければいけないんですね。

佐藤:そうなんですよ。中型はもちろん大型のように、高速を長距離で走る使われ方もありますし、小型のように街中の配送をする車や特装車、レンタカーもありますし、とにかく幅広いので、 その意味では街に暮らす人たちにも共感を得られなければいけません。ドライバー不足と言われるこの時代に、「あの車はちょっとね」と思われるのは良くありませんから。この先、10年、街と調和できるデザインを考えましたね。

大型に必要なのは、ドライバーに選ばれる顔

____面白いですね、その点、大型はやはりドライバー目線でかっこいい顔つきということになるんでしょうか。

渡邉:大型も、街との調和を考えていないわけではありません。大型は今回モデルチェンジをしてみて二つの意見がありました。 大型とはいえど街に調和するような優しいイメージにするか、 逆にいかつくて強い印象を与える顔つきにするべきという意見ですね。 都心部や街中を走る以上は街に調和をしないわけにはいかないんですけれども、最終的な決め手になったのは「ドライバーさんが選ぶ顔」ということです。 先ほど先代のグランドプロフィアの顔が格好いいとおっしゃっていただいたんですが、14年前に出した当時はふそうのスーパーグレートの顔の方が良いという意見が多かったんです。当時40代ぐらいのドライバーさんは日野が良いとおっしゃっていただいていたんですが、若いドライバーさんはふそうのスーパーグレートを選ばれる傾向がありました。

中西:そうですね。あの当時、スーパーグレートは人気でしたね。

当時のスーパーグレート

渡邉:今回は昨今のドライバー不足ということもあり、若いドライバーさんに選んでもらえる顔を意識しました。 その意味で格好良さにこだわりはしましたが、格好良いというのは女性ドライバーさんも増えてきている昨今、従来の格好良さが女性ドライバーさんに受けるのだろうかという心配もありました。そこで実際に、日野の関連会社の女性ドライバーさんに集まっていただいて見ていただいたんです。 そうしたところ、ほとんどの女性のドライバーさんが「こっちの方が良い」と、我々が格好良いと思っている方向性を支持していただけました。トラックはやはり、女性目線でも格好良い方が良いんだなとおもえた瞬間でした。それで安心し納得して、この方向性を決定づけられたというところがあります。

女性や子どもが選ぶ、トラックならではの格好良さ

中西:ああ、僕も個人的に大型はやはり格好良い方がいいと思うんですよ。 近所のトラック協会さんが公園でフリーマーケットをやっている時に、協賛で出店していて必ず大型トラックを展示するんですよ。それで地元の小学生に運転席に乗せてあげたり、トラックと触れ合える環境を作ってあげるんですね。それに僕の息子も連れて行ったんですけれど、子どもは「大きい」「かっこいい」がまず先に来るんですよね。ちょっと話がずれるかもしれませんけれど、映画の『トランスフォーマー』だってやはりメカニカルで、車体のかっこよさというものが強調されていますよね。その延長線上に大型トラックの格好良さみたいなものもあるんだと思います。女性や子どもの目線も大事にする。それはとても良いことだと思いますね。

佐藤:有難うございます。それと同時にやはり本当にトラックが怖くないものとして受け入れられるために、 こだわったのは安全性です。 いわゆる自動ブレーキは大型から始まって、小型にも搭載されて、今回レンジャーに搭載することでフルラインアップ展開が完了しました。やはり安全装備は、標準装備にして普及を促進してこそ交通事故低減に効果が高まる、という日野の安全に対する基本思想があります。今回同じタイミングで中型と大型をモデルチェンジすることが出来ることにより、多くの部分で機器や部品の共有もできています。今回レンジャーの安全性という意味では大幅にグレードアップした自信があります。

これからのトラックに必要不可欠な自動ブレーキ

____確かにトラックのイメージを損ねている一番の原因は、事故の大きさですよね。

渡邉:はい。現在の自動ブレーキに関する法規は、移動障害物に対して原則速度差50キロ以下で作動すること。完全停止は法規ではないはずです。 日野では2006年に 大型車に自動ブレーキを搭載しましたが、 日本の事故の実態からすると 、渋滞で完全に前の車が停まっているシチュエーションが多いんです。ですから、とにかく止まっている車に対してブレーキをかけるという事を念頭に開発されてきました。停まっている車というのは 周りの標識だったりガードレールだったりあらゆるものが停まっているので認識しにくく、すごく難しい技術なんです。逆に動いている方が、それが車だと認識しやすいのです。 日本は停止障害物に対してブレーキをかけるという事にこだわってやってきています。ある時点から ECの法規に変わりまして、ヨーロッパは渋滞と言っても完全停止ではなく、ゆるゆると動いている渋滞なのです。 ECの基準だとそこが移動障害物に対してということになります。 日本は先に停止障害物に対して開発を進め、その後に移動障害物と言う順番になっているんですね。

中西:自動ブレーキは絶対あった方がいいですよね。私も3ヶ月前にトラックに追突された身として、身にしみてそれを思います。 ちょうど先日、私も乗用車の会合に参加していましてやはりスバルのアイサイトを搭載している乗用車は、搭載していない乗用車に比べて80%以上の事故減少率であるという話を聞きました。 実際それによってディーラーの板金部門も仕事が減ってしまっている事でした。

渡邉:商用車に関しても 中部陸運局が出している統計によると実際、自動ブレーキ装着車は事故率が1/3程度まで減少しているという事でした。アイサイトの8割という大台は超えていないのですが、当然ぶつかっている場合でも被害は軽減しているはずですから。

いよいよ本格的なオートマチックの時代が到来か

____今回は安全という意味で自動ブレーキ「プリクラッシュセーフティ(PCS)」もそうですし、ドライバー目線で感心したのがスキャニングクルーズⅡですね。 この機能は長距離運行において非常にインパクトがあると思います。今回、ふそうのスーパーグレートが全車オートマチックになりましたが、日野も今後の方向性はやはりオートマチックなのでしょうか。

渡邉:もちろんそうです。ドライバーさんの負担軽減ということを考えるとやはり2ペダルのオートマチックということになってくるのではないかと思います。ただまだやはりマニュアルを支持されているお客様が多数いらっしゃいます。だからふそうさんは「今回、思い切ったな」というのが僕の実感です。市場の比率でもやはりマニュアルが多いですし、 ドライバーさんでもやはり車好きの方はマニュアルを選ばれるという傾向もありますし。

中西:今回、開発のお話の中であった若い層を取り込むための商品開発として考えた時に、トラックがオートマチックであるというのは絶対条件だと思います。 トラックを生業とする弊社の新入社員でさえもオートマ限定で入社してきます。既存の大多数を占めるトラックドライバーさん、40代から50代ぐらいのドライバーさんは マニュアルを好まれるお客さんが多いですし、中古市場でのマニュアル人気もまだまだ高いのが現状ですけれども。

____中古市場を考えた時にオートマチックよりマニュアルの方が良いというのは、何か理由があるんでしょうか。

中西:日本のマーケット独特の感覚なんですが、やはり保守的なんだと思います。 新しいものを受け入れる素地がなかなかないのが、特にトラック業界、運送会社さんや建設会社さんは多いかなと思うんです。 ドライバーの疲労軽減の観点から言えば、絶対的にオートマチックなんですよね。でもオートマチックのアッセンブリーが故障して交換したらいくらかかるの? とか先に新しいものに対して負のイメージが先行する傾向があるように思います。マニュアルだって、クラッチ交換などリスクはいくらでもあります。昔はオートマチックはまるごと交換する傾向があったので、そのイメージが残っていることもありますが。ヘッドライトだってはじめにバンパー下に付いた時には、「ちょっとぶつかって割れたらどうするんだ」なんて議論は散々されていました(笑)。

ドライバーの思い通りに動くオートマチック

佐藤:働いてなんぼだという所がトラックですからね。 ドライバー不足というのは業界の大きな課題ですし、世の中もどんどん変化していっていますからね。

中西:弊社はトラックを売る側と使う側と両方に立っているわけですが、どうせだったらいっそもうマニュアルは廃止してしまえばいいのにと思うところもあります。そうでもしないと前に進んでいかないジレンマを感じるんです。 各メーカーがオートマチックを導入しつつも、なかなか浸透しないのは、1件2件あったトラブルが大きく噂されちゃって「やっぱり壊れるんだ」というような認識に、簡単につながってしまっているような気がします。相対数はそうでもないはずなんです。正直、昔は多かったと思うんですが(笑)、現在は各社、オートマチックは信頼できるものに進化しました。

渡邉:それとオートマチックがなかなか浸透しないもうひとつの理由は、ドライバーさんの思い通りに動かないと言う点が挙げられると思いますね。乗用車のようにトルクや馬力に余裕があると、間違った変速をしてもエンジンのポテンシャルで引っ張っていってくれるケースがほとんどです。でもトラックは限界ギリギリの性能で走っているので、ちょっとした変速タイミングの失敗で失速してしまう。やはりドライバーさんは、そこをすごく嫌うんですよね。ドライバーさんが思うように車が自動変速してあげないといけない。そこが我々としては、今後もっと開発を進めなければいけない所だと思っています。同じオートマチックでも、乗用車とはだいぶ違う世界なんですね。

大型はオートマチックなのにスリーペダルの謎

____今回、前後進でスローモードが付いていますね。これはプロフィアだけだと思うんですが、クラッチペダルもついている。本来ならスローモードがついていれば、クラッチペダルはいらないと思うのですが、これも大型のドライバーならではの要望ということでしょうか。

渡邉: そこはやはりどうしても、というところでしたね(笑)。

中西:それはすごくよくわかります。プロのドライバーさんほど、ホームづけに使う微妙なクラッチの入り切りにこだわられたりしますものね。

佐藤:大型はどうしてもそのシビアな運転感覚が求められてしまうところです。中型は大型から中型に来る人もいますが、小型から中型に来る人、4tのレンタカ-などは普段乗用車しか乗ったことのない人もいます。ですから幅広いドライバーの層に応える、経験の浅いドライバーにやさしいという意味で、中型トラックは2ペダルが良いと思います。

トラック業界に新風をおこすのは中型トラックか!?

中西:そうそう。今後、中型は増えていくと思うんですよ。 オートマの比率もより大きくなっていくだろうし、台数も増えると思います。 中型がどんどん若い人も含めて、新しいドライバーを引き入れていかないと物流が成り立たないという現実がありますよね。我々がお取引している運送会社さんで、車両は全部日野のお客さんがいらっしゃいます。そこは全車オートマなんですよ。それはオートマチックならドライバー経験が浅かったとしても、 ドライバーのスキルにそれほどの差が出ない。 車両の維持もマニュアルに比べると差がでない。その会社さんは80km/h 以上出ないように自主的にリミッターもつけてらっしゃいます。

____なるほど。今年から準中型免許が施行されて、普通免許を前提としないで、18歳以上であれば7.5トン未満の中型車に乗れる免許が取れるようになった事だったり、業界的にも 中型車が増える理由は多そうですね。

中西:その会社は、それまで小型ドライバンだったりを運転していたドライバーを、どんどん中型車のドライバーとして採用しているようです。すごいのは、その会社さんは「ドライバー不足は全く感じていない」とおっしゃっているところですね(笑)。それは運送会社の方で、誰にでも運転できる仕様のトラックで採用の間口を広くとっているからこそ だと思うんです。 それはトラックが乗りやすければ、もっと大きなトラックにもトライしたいというドライバーさんが多い事に他ならないんですね。かたや弊社はトラックのレンタルも行っているものですから、オートマチックのニーズの高さは日に日に感じているところであります。 弊社の本業は中古トラック販売業という事もあり、レンタルトラックではオートマチックはあまり入れたくないのが本音なのですが。

佐藤:確かにトラックのリセールバリューは中古になると、マニュアルの方が高くなってしまう傾向があるという話は聞いたことがありますね。

中西:はい。例えばレンジャーで中古トラックだと、マニュアルとオートマチックでは100万近い値段の開きがつく場合もあります。新車はオートマチックの方が高いんですけれどもね。差額がどうしてもそれぐらい出てしまうと、オートマチックを敬遠したくなるわけです。ただ現在は、その差は少しずつなくなってきていると思います。

もうこれ以上、低排気量化できないエンジン

____なるほど。トランスミッションの話が熱いですが、新しいエンジンの話にいきましょう。今回の新エンジンA09Cは9リッターですが、今後大型トラックの排気量は今まで以上にどんどん低排気量になっていくのでしょうか。

渡邉:ダウンサイジングという意味で今回は9リッターになりましたが、これ以上の低排気量化は限界があると感じています。やはり25トンを引っ張れる力としてはですね。回転を上げて馬力を稼がなければいけないとなると、燃費も悪くなってしまうので、我々の9リッターは大型のエンジンとしては最適なところに落ち着いたと感じています。

____低排気量は低燃費につながるという意味でもそうですが、確実に重量減につながりますよね。 今回あくなき軽量化のための努力をされていらっしゃったかと思うのですが、いかがでしょうか。

渡邉:今回9リッターのエンジンに関しては大幅な軽量化に繋がっています。今回、大型はエアサスも軽量化しました。ですがトラニオンサスペンション、いわゆる リーフ型のサスペンションは海外が主流で、海外との共通化を図ったため、そちらはどちらかというと重量が増えてしまっています。軽量化は細かいところをちょこちょこ削っていってもなかなか身を結ばないと言うのが実感です。それは目に見える軽量化にならないんですよね。

マーケット次第で重量へのこだわりは変わる

____日本の道交法における過積載に対する意識は高いものがあると思っていまして、 ゆえにヨーロッパのトラックなどに比べて軽量化を強く意識しなければいけないマーケットの実情があると思うのですが、いかがでしょうか。

渡邉:欧州のトラックマーケットでもリジットトラック、いわゆる単車型のトラックは重量に対して非常に厳しいですね。エンジンを低排気量にすることによって、相殺するなど工夫されている印象があります。一方でトラクターが主流のマーケットは第5輪荷重の重量だけを気にしていればいい部分もありますので、ヘッドの重量それ自体はあまり気にしないという傾向はあるかもしれませんね。ですからトラクターによるトレーラーが主流のマーケットは、重量に対してそれほど強い意識はない、逆に単車型が主流で過積載に厳しいお国柄などは、やはり重量の問題は付いて回りますよね。それは日本固有ではないと思います。先進国の中で単車型のトラックを多く使っているのは、日本のマーケットであるがゆえだと思います。

純国産メーカーならではの悩みとは

____なるほど。今回の日野のプロフィア、レンジャーの大規模なモデルチェンジというのは、本当に大きいものだと思っていまして、エンジンもシャーシも国産の純国産メーカーとして考えると、日野といすゞは今後どうなっていくのか非常に興味深くあります。 ふそうやUDが海外ブランドと協業することによって進化していくように、純国産メーカーはより国内マーケットにおいてより先鋭的になっていく気もしています。

渡邉:質問の答えになっているか分かりませんが、 現在の日本の安全基準や環境基準に関する法規が、どんどん欧州を見習う傾向が強まっているんですね。 それは欧州のことですから、欧州メーカーは対応できているケースがほとんどです。 そうなってしまいますと日本と欧州ではトラックの使われ方が違っているので、これまで思ってもみなかったような課題が浮かび上がってきます。 そういった課題に対して、海外メーカーと協業されているメーカーさんは有利であると感じざるを得ません。そこが純国産メーカーの課題なんですね。

中西:それは初耳でした。やはり国内マーケットは純国産メーカーに分があると思っていました。

渡邉:やはり日本は日本の使われ方に対する、独自の法規といったものがあれば別なのですが、突然想定もしてなかった法規が欧州から入ってきてしまう。例えば(極端ですが)アウトバーンで、150キロで突っ込んでくる車にどう対応するか、というような法規がいきなり日本に入ってきてしまうわけです。我々はそれを想定していなかったとしても、非関税障壁といわれれば、やらざるを得ないことではありますので、 必死に対応していく他はない。その意味で危機感を感じている状態です。 欧州と協業しているメーカーは先行してそれがすでに手の中にあるわけですが、純国産メーカーは技術が手の内にないのに法規として決まってしまう。規制が先行してしまうという危機感ですね。

プロフェッショナルが技術を持ちよる、集合体としてのトラック

佐藤:今までは単独でメーカーとして生き残れたかもしれませんが、これからの時代、ものすごいスピードで色んなものが変化していきます。スマートフォンも安全装備もそうなんですけれども、やはり「餅屋は餅屋」じゃないかと思うんです。お客さまの望むトラックを企画し商品化する。それは我々、日野の仕事だと思うのですが、例えばお客様が望むものを具現化するために必要な通信技術だったり、専業性の高い部分はパートナー企業の力が必要になってきます。やはり得意分野を持っている企業にはかなわないと我々自身も思っているところなのです。 我々自身、単独の力でこの先もやっていこうというのではなく、広く海外に視野を広げて、より良い製品を作っていく。 そういう大きな転換点が近づいてるのではないだろうかと思っています。

渡邉:中西社長のおっしゃる「共走」という考え方が、今後業界的にどうしても必要になってくると思いますね。自分たちだけの技術でやりくりできる時代では、もうなくなってしまったということです。

渡邉良彦(わたなべ よしひこ)
1965年7月生まれ。1989年3月 中央大学 理工学部精密機械工学科卒業。同年4月 日野自動車工業株式会社入社。2014年7月 製品開発部 チーフエンジニア。現在に至る。

佐藤直樹(さとう なおき)
1967年1月生まれ1989年 3月 日本大学 理工学部 機械工学科卒業。同年4月 日野自動車工業株式会社入社。2014年 7月 製品開発部 中型トラックチーフエンジニア。現在に至る

http://www.hino.co.jp/profia/
http://www.hino.co.jp/ranger/

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